2011年6月22日水曜日

ロボットと殺陣にベーシックの極意を見る

NHKの番組「Deep People」。
偶然にも2週連続で観たその中で、サルサダンスの極意に結び付く言葉を見つけた。

まず今週の「時代劇の殺陣師」の言葉。

武士は普段歩く時でさえ、正中線を乱すことはないという。

正中線とは、身体を左右対称に分けるように貫く中心線のこと。
人が何も意識せずに歩くと一歩毎に正中線が左右にぶれることが多い。
さらに「肩で風を切る」ように歩くと、頭自体も左右に揺れてしまう。
このような歩き方をしたら本物の侍に見えないというのが、リアリティを追求する殺陣師の言葉であった。

これは正しくサルサのステップに通じる言葉である。

女性によく見られるのだが、踊りに酔うあまり、波間の小舟のように上体が左右に揺れる人がいる。
これだと正中線がカウント毎に揺れるので、リード&フォローに対応できない。
自分が知っているワザしか受けられないので、初級レベルから脱することが難しくなるのである。

次に先週の「人型ロボット開発」。

二足歩行ロボットは1970年頃から本格的な研究が始まったらしいが、当時は人間のように多くの関節を持たせられなかったので、人の歩き方とは程遠いぎこちなさだった。
多くの関節を同時制御する技術の発達により、次第に人間の歩き方に近付いたわけだが、近年まで本物の人間との決定的な違いを克服できなかった。
有名なホンダのアシモに見られるように、安定した姿勢を維持する為には両足とも「膝を曲げたまま歩かせるしかなかった」というのだ。

実際に人が歩く時、一方の膝が曲がっている時には他方はまっすぐ伸びているはずだ。

それを可能にするのが骨盤の存在。
膝の曲げ伸ばしで生じる股下長の変化を調整する為に、骨盤が3次元的にローリングするのだ。

アシモの写真を見ると、骨盤に相当する部位はない。
骨盤の助けがなくても、膝を曲げたまま歩行させれば胴体が揺れるのを防げるので省略したのだろうが、「より人間に近い人型ロボットの開発」という目的に沿うなら骨盤は不可欠だ。

ここで話をサルサに移すと、両膝が曲がったままステップをする男性や、つま先立ちのままの女性を見ることがよくある。
これは「頭や両肩を上下動させない」というステップの基本を守る為に行き着いた各人の奥義なのだろうが、反面「骨盤を使わずにステップする」という致命的な欠点に結び付きやすい。

ラテンダンスの最大原理「加重ステップ」は、一歩毎に骨盤がロータリーエンジンのように動き、その軸上に上体が載ることで成される。

それを考えると、アシモ流の安定姿勢は不適当なショートカットだと言うしかないのである。